論文掲載：GOKURIによる動画・嚥下音解析を用いた咀嚼・嚥下の加齢差検証

2025年8月1日付で『Journal of Oral Rehabilitation』に掲載された論文「Automated Assessment of Test of Masticating and Swallowing Solids Using a Neck-Worn Electronic Stethoscope: A Pilot Study」（東京科学大学 大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野 教授　松尾 浩一郎らの研究チーム）にて、日本人123名を対象に、頸部装着型の聴診デバイス（NWES: a neck-worn electronic stethoscope）とスマートフォンによる同期録画を活用し、TOMASS（Test of Masticating and Swallowing Solids）※の自動化および客観的評価手法の有効性が検証されました。

背景：咀嚼や嚥下の評価方法には、グミ状ゼリー、ピーナッツ、シリコンチューブなどが使われてきましたが、自然な固形食の「咀嚼と嚥下を一体で評価するスクリーニング手法」は十分には確立されていませんでした。

TOMASSは、クラッカー摂取に伴う咀嚼回数・嚥下回数・摂取の所要時間を定量的に測定する方法として一定の科学的根拠が確認されていますが、従来の方法は実施者による観察に依存しており、実施者の技能や客観性と効率性に課題がありました。

そこで本研究では、頸部装着型の聴診デバイス（GOKURI ネクバンド）とスマートフォンでの同期録画を組み合わせた解析手法を用いて、TOMASSの自動化と客観的評価法としての有効性を検証しました。

研究内容：健康成人123名（平均年齢58.7±18.5歳）の被験者がクラッカーを摂取する際に、NWESで嚥下音を、スマートフォンで動画を録画し、咬合回数・嚥下回数・摂取時間（OPST※※／1st‑OPST※※※）、年代を20-39歳代、40-59歳代、60-79歳代、80歳以上に分類し性差についても解析を行いました。

男性では80歳以上の群において、OPST の中央値は約36.1秒、女性では 1st-OPST の中央値は約29.8秒でした。結果として、男性では80歳以上において OPST および 1st-OPST の加齢による有意な延長が認められました（p < 0.001）。

一方、女性80歳以上の群では、OPST の変化は比較的小さいものの、1st-OPST において若年層と比較して有意な延長が観察されました（p < 0.001）。加えて、嚥下回数は加齢とともに有意に減少する傾向が認められました（p < 0.001）。

また、若年女性は若年男性と比較して咬合回数および嚥下回数が有意に多いことも確認されました（咬合：p = 0.042、嚥下：p = 0.026）。

結論と意義：

これらの成果は、咀嚼・嚥下の機能評価において、性別・年齢に応じたスクリーニング指標の設計が重要であることを示唆しています。さらには、NWESを用いたTOMASSの自動・客観的評価手法は、高齢者や嚥下障害リスクを抱える人々へのスクリーニングとして、今後の臨床応用が期待されます。

本研究の詳細につきましては、こちらの論文をご参照くださいhttps://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joor.70030

用語について ※TOMASS（Test of Masticating and Swallowing Solids)：クラッカーを一片摂取するのに要する総時間に加え、咀嚼回数と嚥下回数を測定するテスト。 M. L. Huckabee, T. McIntosh, L. Fuller, et al., “The Test of Masticating and Swallowing Solids (TOMASS): Reliability, Validity and International Normative Data,” International Journal of Language & Communication Disorders 53 (2018): 144–156. ※※OPST（oral processing and swallowing time)：クラッカーを噛み始めた最初の音から、クラッカーの完食を意思表示する発声が始まるまでの時間

※※※1st-OPST：クラッカーを噛む最初の音から、最初の嚥下に関連する音の発生までの時間