嚥下評価を「日常の診療」の先に
- PLIMES Matsuda Saho
- 2月25日
- 読了時間: 4分
——歯科医師の実践から

取材協力:澁谷英介さん(医院長・歯科医師)
歯科治療と摂食・嚥下を専門に
渋谷歯科医院は、東京都板橋区で100年以上続く地域の歯科医院です。現在は外来診療に加え、施設や在宅への訪問診療も積極的に行っています。
訪問診療の対象は高齢者施設の入所者、在宅療養者、障害のある方、人工呼吸器を使用されている方まで幅広く、義歯調整や修理にも力を入れています。
「入院して痩せてしまい義歯が合わなくなったら、どのみちミキサー食だから、と義歯を外される患者さんもいらっしゃる。その結果、さらに筋力が落ちるんです」
こうした現実に直面してきたことで、澁谷さんが歯の治療だけでなく「食べる機能」そのものに関わる診療へと軸足を広げるきっかけになりました。
嚥下内視鏡検査だけでは見えない部分——導入の背景
2008年頃から、澁谷さんが介護老人保健施設内での歯科診療に関わる中で、嚥下評価の必要性を強く認識するようになりました。当時は月に一度、外部の専門家による嚥下内視鏡評価を行っていました。しかし、嚥下内視鏡検査は対象患者への負担が大きく、普段の食べ方とは違う状態を評価しているのではないか?という思いもありました。
日常の食事場面で何が起きているのかを、無理のない形で継続的に見守る方法として従来の聴診器による嚥下聴診を活用することで、嚥下動態を把握し、必要な支援を行ってきました。
その取り組みをさらに精度を高めるために着目したのが、食事の開始から最後まで連続的に観察でき、非侵襲で、かつ客観的データとして多職種と共有できる仕組みでした。評価そのものが負担にならず、24時間見守る介護職の業務を増やさないことも重要な条件でした。」
日常の食事場面でどう使っているか
現在、施設等への訪問診療で摂食・嚥下機能で関わるのは、経口維持が必要な方や新規入所者、誤嚥性肺炎後に再入所された方、そして「最近むせが増えた」といった変化が見られる方です。聴診器や筋電計と併用しているのが頸部装着型電子聴診器GOKURI。評価はGOSTプロトコルを中心に実施し、推定FILS値や推奨食形態と実際の食形態との整合を確認しながら、大きな乖離がないかを検討します。
朝・昼・夕とどの条件でデータをとるのか、その日の体調や服薬の影響など、様々な状況から総合的に読み取ります。「GOKURIで食事能力の指標を出すアプリの推定値は、厳しめに出るので、より安全なガイドという認識」という感覚を持ちつつ、覚醒レベルが低い場合などは評価条件を揃え、慎重に判断しています。
GOKURIの特長は、ワンセッションにとどまらず食事全体を通して観察できる点です。食事開始から途中までは問題なくても後半にむせが増える方、温度差や粘度の違いで反応が変わる方など、連続記録だからこそ見える変化があります。水でむせる方にとろみを加えた際、嚥下音の波形が安定する様子をその場で確認できることは、調整の妥当性を裏づける材料となります。
GOKURIの位置づけと期待
内視鏡では咽頭残留や嚥下反射の遅延、汚染所見を直接確認できます。一方でGOKURIは、睡眠中のむせや食事中の経時的変化、呼吸音との関係といった日常場面の情報を記録できる可能性があるのではないかと、澁谷さんは話します。「むせている」という事実を客観的に補強する材料として機能しています。
つきっきりでなくても聴診器を対象者に設定することで嚥下音を確認できるため、効率的に評価を進められるようになり、姿勢や一口量、提供速度などの具体的な指示もしやすくなりました。施設との情報共有も円滑になり、「最終的に判断するのは人。データはその材料」という姿勢のもと、支援の組み立てに確実性が加わっています。
今後は夜間評価にも関心を寄せており、睡眠中のむせや無呼吸との関連を把握できれば、不顕性誤嚥の可能性や口腔ケア、保湿、3DSなどの介入選択に活かせるのではないかとご期待をお話しいただきました。「正常の嚥下サイクルを知らないと対処できない。」安全に成立しているメカニズムと現在の危険との差を観察し、修正していく。その検討を支える道具として、GOKURIは日常診療の中に位置づけられています。

