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管理栄養士として、嚥下評価を毎日の食支援につなぐ

  • 執筆者の写真: PLIMES Matsuda Saho
    PLIMES Matsuda Saho
  • 2月25日
  • 読了時間: 5分

更新日:2月26日

——管理栄養士・井上彩さんの実践から












施設名:社会福祉法人養浩会 すずしろの里

    鹿児島県肝属郡

見学日:2026年1月26日

取材協力:管理栄養士 井上 彩 さん

社会福祉法人養浩会 すずしろの里は、全国から入所者を受け入れている障害者支援施設です。身体障害、精神障害、知的障害のある方をはじめ、医療的な配慮が必要な方など、さまざまな背景をもつ方が入所されています。

施設の職種体制は、管理栄養士を中心に、PTが週3回1名、看護師4名、介護職が約30名です。今後は外国人介護人材の受け入れも予定されています。


「形のある食事」をあきらめないという考え方

すずしろの里の食支援の根底には、「できる限り形のある食事を続ける」という考え方があります。「食事」を毎日の楽しみの一つにしてもらうためには、安全は当たり前で、そして常に判断を伴う支援です。

井上さんは次のように話します。

「刻み食やミキサー食に一律で移行するのではなく、可能な範囲で形を残し、食への意欲や挑戦を支えたいという考え方が、施設全体にあります」

この思想には、前理事長夫妻の考え方が大きく影響しているそうです。食べることを単なる栄養摂取としてではなく、生活の質や尊厳に関わる行為として捉え、支援の中心に据えてきました。


付け合わせの形と風味まで残したやわらか食
付け合わせの形と風味まで残したやわらか食
刻み食レベルの調整
刻み食レベルの調整
普通食、調整食を一緒に並べても自然です
普通食、調整食を一緒に並べても自然です

具体的には、「黒田留美子式 高齢者ソフト食」や「凍結含浸やわらか食」を参考にしながら、献立や調理手順を体系化しています。約9年前の厨房改装を機に、日常的に提供できる運用体制が整ったそうです。


判断に自信が持てるように

一方で、こうした食支援は常に難しさを伴ってきました。

形のある食事を続けるからこそ、「この方に本当に合っているのか」「無理をさせていないか」という判断が欠かせません。

「嚥下評価、とくに頸部聴診は、どうしても実施する人に依存してしまう部分がありました」

過去には、学習経験のある職員が異動したことで、相談できる相手がいなくなった時期もありました。また、日中と夜間で対象者の状態も変わることから、評価の客観性と効率が懸念されていました。


介護職は水分や食事介助の現場で多くの観察を行っていますが、評価手技そのものは属人的で、スケジュールにも左右されやすい状況でした。

「見ている」ことと「評価する」ことの間に、ギャップがあったと言えます。


GOKURI導入に込めたねらい

こうした背景から、GOKURIの導入が検討されました。

井上さんの導入のねらいは、

• 安全性の向上

• 判断根拠の可視化と説明可能性の確保

• 食形態調整の精度向上

• 多職種で共有しやすい形にすること

でした。

「なぜこの食形態にしたのか、ちゃんと食べられそうなのか、周囲の職員と一緒に検討するデータにしたいと考えていました」


現在GOKURIを使用する主な対象は、新規受入時(在宅から、または他施設からの入所)や、食形態変更を検討する場面です。

「GOSTプロトコルを使って評価することが多いです。本当にとろみが必要か、一口量はどの程度が適切か、温度差でむせやすくならないかなど、具体的な調整判断のために使っています」


使用タイミングは、新規受入時や食形態変更時のほか、定期評価として温度の異なる飲料を飲み比べる場面などです。主任クラスが中心となり、介護部長とともに計測を行っています。会議での情報共有にも用いられていますが、現時点ではクラウド機能は本格的には活用していません。

「退院時に処方された食形態はあくまでも食べられるようになるための直接訓練です。ご利用者の食形態をあげる、とろみ剤を変更する、そのタイミングでしっかりと観察をした上で、GOKURIを使って判断をするようになりました」


GOKURIで変わったこと

現場ではいくつかの変化が確認されています。

「まず、嚥下の計測回数が増えました。実施しやすくなったという点が大きいです」

計測回数が増えたことで、食形態の変更が以前よりタイムリーかつ頻繁に行えるようになったこと、また数字として提示できる情報も増えました。

それは結果として、判断の迷いが払拭されたことにより心理的な負担の低下にもつながっていると感じているそうです。


「感覚だけで伝えるより、客観的な指標がある方が、受け止めてもらいやすいです」

職員の間でも、「GOKURIを使えば」という言葉が自然に出るようになりました。嚥下のスクリーニングに対する現場の受け止め方の変化を示すものです。

一方で、GOKURIがあっても変わらないことももちろん。それはご本人の状況を観察して、必ず判断に含むことです。またスタッフへの負荷を考慮した施設長の意向もあり、栄養・食事に関連した介護保険報酬などへの連動へは取り組んでいないとのことでした。

だからこそ今後目指しているのは、特定の人だけが使える仕組みにしないことです。

「他職種や新人でも使える状態を目指しています。標準化や教育の部分が、これからの課題だと考えています」


食支援、とりくみを発信

すずしろの里では、こうした取り組みを外部にも発信しています。見学の受け入れやセミナーでの発表、高校生への職業説明など、発信の機会は多岐にわたります。また井上さん自身は、「栄縁」などの自主勉強会にも参加し、管理栄養士同士の横のつながりを大切にしています。


「継続的に学び、様々な食形態の方が同じテーブルで、違和感なく一緒に食事が楽しめることを目指しています。そのための誤嚥リスクの把握や調理方法など、病院や施設、在宅などいろんな場所で活躍する栄養士や看護師、ご家族様と共有できる場があることは大きいと感じています」


判断を支える道具として

すずしろの里では、経験と日々の観察に、もう一つの視点を加える道具としてGOKURIを位置づけています。「最終的に判断するのは人です。その判断を支える材料が増えることで、食支援の質を保ち続けられると考えています」

日常の食事の中で積み重ねられている実践には、客観的なデータを活用し、見守る人の判断を中心に据え続ける姿勢が表れています。

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