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「おいしさ」の開発、感じ方をかたちと味に

  • 執筆者の写真: PLIMES Matsuda Saho
    PLIMES Matsuda Saho
  • 15 時間前
  • 読了時間: 5分

——株式会社明治・久嶋さんの食品研究活用事例












取材協力:久嶋智子さん

研究分野: 高齢者向け食品・摂食嚥下・食品物性評価


食品の開発において、「おいしさ」や「食べやすさ」はどのように決まるのでしょうか。株式会社明治で高齢者向け食品の物性評価・研究に携わってきた久嶋さんは、長年、この問いに向き合ってきました。

「飲み込みにくさや、食べ辛さは、開発者にも想像はできます。でも『かんで飲み込む』が困ることなくできている以上は、やはし想像でしかないんです。やわらかくすればいい、とろみをつければいい、と試行してみるのですが、それが本当に困っている方々にとって適切なのか——確かめる手段がありませんでした」

物性データは取れます。しかし数値が「人にとってどう感じられるか」には直結しません。また、「飲みやすい」という言葉が指す感覚が人によって異なります。何か良い計測ツールがないかと探している中で、GOKURIに出会いました。


飲み込みを測って可視化する


GOKURIの導入が変えたのは、「評価の個人差」の問題でした。

「GOKURIで嚥下を測ると、みんなで同じ映像と音と波形を見ることができます。研究メンバー間での『これって飲めているよね』『これって飲みづらいよね』という認識を一致させることができて、判断を統一しやすくなりました」

GOKURIを使う以前も、頸部に機器を装着して嚥下音を記録する評価手法はありましたし、実際に久嶋さんも活用していましたが、当時は「音」を聞くことができるツールでした。もちろん音でタイミングはわかりますが、GOKURIを活用した場合、映像と音から動作とともに喉の中で起きていることが同時にわかり、それが使いやすい理由だといいます。


「やわらかければいい」ではない


久嶋さんが研究を通じて改めて実感していることがあります。それは、「やわらかくするだけでは不十分」という視点です。

「食品をやさしくしていくと、どんどん機能が落ちていく。介護施設の理事長さんと話したときも、ただやわらかくするのは違うとおっしゃっていた。その人に合ったものを食べ続けられることが、機能の維持につながる。それは私も栄養に関わってきて、同じ思いをもっています」

実際に研究の結果として見えてきたのも、物性のちがいが「口の中でコントロールしながら飲み込める」かどうかに関わるという点でした。

「病院などでは、ぼそぼそしているから改善してほしいと言われていた物性が、実際には口の中で自分でまとめながら嚥下しやすいという機能性を持っていました。評価と実態が逆だったわけです。それが、嚥下の可視化によって初めて説明できるようになりました」


久嶋さんが日頃の研究で取り組んでいるのは、自社製品や試作品の物性を数値化し、製品設計に活かすことです。「なめらかさ」「飲みやすさ」といった感覚的な表現を、データとして示します。

食品の物性は、味覚とも深く連動しています。

「例えばブドウ味のゼリーでも、ブドウの食感じゃないものが入ってくると、ブドウとして感じにくくなる。逆に、ブドウの房の、あのつるんとした感触と味が一致すると、ブドウとして感じやすくなる。物性と美味しさはリンクしていると思います」

こうした知見を、GOKURIによる嚥下評価と組み合わせることで、食品が「口の中でどのように働くか」を科学的に記述する基盤ができつつあります。


研究者として大切にしていること


久嶋さんは、栄養学を学び、その後食品メーカーの研究職として、ベビーフードから高齢者食まで、一貫して健康と栄養を軸に、食品に携わっています。そんな久嶋さんが大事にしていのは、「食べる人の側」を見続ける視点。

「自分たちが良いと思うものを作るのは当然です。でも相手がどう感じているか、実際に食べる人がどう思っているかを気にしないと、開発と消費者の間でずれていく。素材、味、加工、パッケージング、さまざまなアイデアと制約の中で、さいごにお客様の手に触れたその先で、どんな風に届くのか、GOKURIを使って実施した研究で食べる動作を一緒に見られたことで、それが改めてわかりました」

食品が届く先には、いきいきとした暮らしがあります。その営みの中で人が安全に、おいしく食べ続けられるために、嚥下の可視化は、食品研究の新しい問いを開きつつあります。


半固形状ゼリーの物性×嚥下動態

株式会社明治・国立長寿医療研究センター・PLIMES株式会社の三者共同で実施した研究では、物性の異なる半固形状の栄養ゼリーを対象に、GOKURIを活用した嚥下評価を行いました。

着目した指標は2つです。口腔保持時間(口に取り込んでから嚥下開始までの時間)と、嚥下音から算出した嚥下時間のばらつきです。

物性の違いが口腔保持時間と嚥下のばらつきに影響することが確認され、動画と波形を同時に記録できるGOKURIの特性が、その説明を可能にしました。

研究の過程では、食品の物性評価という当初の目的を超えた気づきもありました。実験中、キャップが開けにくい、スプーンの使い方が難しい、頷きながら飲んでいるといった食べる動作の細部が自然に記録されていたのです。食べる場面全体が可視化されることで、研究者にとって予想以上に多くの情報が得られることも、この研究を通じて見えてきました。

「半固形流動食の摂取しやすさに及ぼす物性の影響」

久嶋智子, 外山義雄, 奈良原由春, 加藤紫, 辻󠄀本昌史, 松田佐保, 下柿元智也.

日本食品科学工学会第71回大会, 食品物性・嚥下・咀嚼機能, 2024年8月31日.

日本食品科学工学会大会講演要旨集, 第71回, p.446, 2024. DOI: 10.3136/aamjsfst.71.0_446.



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